君を愛していいのは俺だけ

 それからは社長室とMDの業務の両方をこなしつつ、三月からは社長室の会議にも出席できるよう、あらゆる資料に目を通した。

 十四時を過ぎると、佐久間さんも他部署の社員と取引先へ外出予定になり、他の社員も各々忙しそうにしている。
 私もMDの自席に戻って、残りの引継ぎを進めてから、定時を少し回った頃に帰宅することにした。


 二月末の夜風は身震いするほど冷たい。
 行き交う人の白い吐息が街を染め、澄んだ空には数えるほどしかない星が瞬き、乱立するビルの明かりが煌々としている。
 景色を見渡していたら鼻の頭と耳がみるみるうちに凍てつき、足早に最寄駅へと向かった。


 駅前の角を曲がり、エスカレーターで商業ビルと直結している構内へ。
 膝丈のコートやマフラーで防寒していたけれど、心の中で『あぁ、寒かった』と呟きながら、すっかり冷たくなった両手に息を吹きかける。


「っ!!」

 なんの前触れもなく背中から抱きしめられて、驚きと共に勢いよく振り返った。


< 313 / 431 >

この作品をシェア

pagetop