君を愛していいのは俺だけ

 渋谷で乗り継ぎ、青山一丁目駅で降りて外に出たら、彼の携帯が鳴った。


「ちょっとごめんね」

 繋がれていた手が解かれ、残された温もりが消えないように、左右の手のひらを握り合わせて閉じ込める。
 大きな彼の手に包まれていると、なにもかもから守られているような気分になれるから不思議だ。


「――かしこまりました。では明日よろしくお願いいたします」

 おそらく客先と話しているのであろう彼の横顔に、仕事中に見る凛々しさが垣間見えた。


 今のふたりは、七年前とは違う。
 陽太くんは社長という立場があるし、社内外で求められるあらゆる期待に完璧に応えている。
 私もSUNRISERの一員として、彼が築いてきたものを守り、より発展するために尽力する。

 だけど、それは表向きのふたり。
 こうして手を繋いで微笑み合い、一日の出来事を話す何気ない時間が宝物になっていく。
 それは、あの頃にもあった時間によく似ていて――。


「ごめん。行こう」

 彼の優しい温もりも、私が覚えているあの頃と変わっていなくてホッとさせられる。


< 315 / 431 >

この作品をシェア

pagetop