君を愛していいのは俺だけ
食事を済ませた頃には、もう二十一時を過ぎていた。
「陽太くん、まだ仕事するんでしょ?」
「ごめん、暇だよな。もうちょっとだから」
ソファに座って、タブレットとノートパソコンで作業している隣にいると、彼が私のために時間を割いてくれたのだと分かる。
駅に向かう私を偶然見かけたから、予定を変更してくれたに違いない。
外出先から社に戻って、今やっている仕事を進めてから帰宅しようとしていたはずだ。
「私、そろそろ帰るね」
そう告げると、彼はパソコンの端に表示されている時計をちらりと見遣って、作業の手を止めた。
「……ねぇ、仁香」
「なぁに?」
彼はおもむろに手を伸ばし、私の髪をやわやわと撫でる。
「気を使ってくれてるの?」
「だって、まだ仕事があるんでしょ? それに早く寝ないと明日もあるし」
「……帰らないでって言ったら、どうする?」
「えっ……」
滑り落ちてきた彼の左手が、私の頬を包む。
親指で唇に触れられたら、私の曖昧な意志が揺らいでくる気がして、また目をそらしてしまった。