君を愛していいのは俺だけ

 今の陽太くんを、どこまで信じていいのだろう。
 信じたい気持ちに、目の前の現実が突き刺さってくる。


 今日の様子だと、佐久間さんも知っているようだったし、『進めていい』って陽太くんは言ってて……。
 縁談を進めるのは、その人と結婚を前提とした付き合いをする意思があるからで。


 寝支度をするつもりだったけれど、彼の匂いやふたりの生活を感じる空間にいるのがつらくて、私はそっと家を出た。



 四月の夜は、まだ少し肌寒い。
 携帯の電源も落として、誰とも関わりを持たずに過ごしたくなった。
 あてもなく夜の街を歩き、適当に走ってきたタクシーに乗り込み、「まっすぐ行ってほしい」とだけ告げる。


 どこに向かってるんだろう。
 いつ帰ったらいいんだろう。

 陽太くんが私との関係を隠し通してきたのも、佐久間さんに知られてあんなに困った様子だったのも、縁談があるからじゃないのかな……。


 こんなこと、考えたくもないのに。
 やっと叶った恋が、また形を崩して片想いに戻ってしまいそうで悲しい。


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