君を愛していいのは俺だけ

「飲みに行きませんか?」
「結構です」

 その場を去ろうとしたのに、後ろ手を引かれてしまった。


「泣きそうな顔してるかわいい子を、放っておけないだけだから」

 強引な力に抗えなくて、引っ張られるままに距離がなくなっていく。


「本当に、結構ですからっ……」

 だいたい、見ず知らずの男性と飲めるような性格でもないし、今夜はそんな気分でもない。

 バッグに入れていた携帯の電源を入れようとしたら、男性に取り上げられてしまって。


「返してください」
「俺と飲みに行くっていうなら、返すけど」

 意地悪く掲げられた携帯に、手を伸ばしても届かない。
 行き交う人たちは、痴話喧嘩でもしているのかと冷ややかな目を向けてくる。


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