君を愛していいのは俺だけ
キスの後、私の頬を片手で包みながら見つめてくる彼の瞳は、ほんの少し濡れているようで胸が痛んだ。
「陽太くん、飲み会は?」
「終わって帰ったら、お前がいないから……思い当たるところを探し回ってた」
人目を気にせず抱きしめたまま、何度もキスをしてくる彼の心模様がじんわりと伝わってくる。
だけど、こんなことをされると、別れの時がもっと怖くなる。
あと半月もすれば、きっとなにもなかったように過ごすんじゃないかって、そんな気がしてならなくて。
「とりあえず帰ろう。話はそれからだ」
彼は通りかかったタクシーを停め、南青山のマンション名を告げた。
走り出した車内を沈黙が支配する。
カーラジオから流れるトーク番組と、車線変更のウインカーの音が聞こえてくるだけ。
ちらりと隣に座っている彼を見たら、苦々しい表情で車窓の外を眺めている横顔が見えた。