君を愛していいのは俺だけ

 都内屈指の五つ星ホテルに到着し、館内に入る前にもう一度深呼吸をする。

 できれば、写真で見るだけにしたかった。
 お見合いをしているところなんて、見たくないのに……。

 ため息混じりの深呼吸を数回繰り返す。


【ホテルに着いたよ。どこにいけばいい?】
【二階のラウンジにいるから。俺の名前で通してもらって】

 場違いにならないよう、持っているワンピースで一番清楚な印象のものを着てきた。
 相手は着物姿で凛としているのかな。
 それとも、洋装でお洒落な格好をしてる?

 陽太くんの気持ちが、わずかでも動いてしまうようなことがなければいいと、心の奥底から願う。


「いらっしゃいませ」
「周防さんに面会なのですが」
「伺っております。ご案内いたします」

 足元に気を付けるよう、丁寧に案内される。


 佇まいのいいマダムがお茶をしている声が聞こえてくる。
 スーツ姿の男性が商談をしている様子を横目に、テーブルの間を進んでいく。

 再会したあの日のデジャヴのようだ。


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