君を愛していいのは俺だけ
さりげなく社長室を眺めると、彼女が耳に髪を掛ける仕草が目に留まり、不意を突かれた鼓動がドキドキしてきた。
火照ってきた頬を覆い、深呼吸して平静を取り戻そうとしたけれど、やっぱり仁香が好きすぎて、気持ちが爆発しそうになる。
「末期だな……」
言葉にならない気持ちを密かに噛みしめ、両手で顔を覆ってひとり悶えた。
この歳になれば、人並みに女性慣れはしているはずなのに、相手が仁香というだけでまるで初恋の頃のような自分に逆戻り。
ついこの前、仁香が決起会の帰りに俺を名前で呼んでしまったことがあったけど、本当はそれをとやかく言う権利なんてない。
仕事中なのに彼女のことばかり考えてしまって、まったくだらしないな……俺は。
「失礼します」
ガラス扉をノックして入ってきた佐久間が、顔を覗かせた。
俺はゆっくり瞬きをしてから、表情を引き締め直した。