君を愛していいのは俺だけ

『――はい。周防です』
「お疲れ様です。MDの秋吉です」

 受話器越しの彼の声に、付き合っていた頃が蘇る。
 夜な夜な、彼と電話をして笑って、眠くなったら終話して……懐かしいな。
 あの頃よりも、少し声が低くなったように感じるけれど、優しい声色は同じ。

 社長が、陽太くんだったら……だけど。


『あぁ、お疲れ様。ごめんね、返信遅くなって。まだ残ってたんだ』
「はい。あの、これから伺ってもいいですか?」
『もちろん。じゃあ、待ってる』
「ありがとうございます」

 心待ちにしていた連絡が入って、首を長くして過ごしていた時間が慌ただしく進んでいく。
 バタバタと帰宅の準備をして、机の下から通勤用のバッグを取り出し、離席した。


 いつもは下がっていくエレベーターが、今日は上昇していく。
 ドアが開いて踏み出したら、通路の先にある社長室のドアの前に、彼が立って待ってくれていた。


< 56 / 431 >

この作品をシェア

pagetop