君を愛していいのは俺だけ

 私がずっと想いつづけてきた彼は、こんな人じゃなかったはず。

 社長室フロアからビルの地上階まで下降するエレベーターの中、途中で乗り合わせた他社の社員に混ざって、ぼんやりと考える。


 周防社長は、紀 陽太だった。
 どうして名字が違うのかは、またきっかけがあった時に教えてもらえるなら、それでいい。

 だけど、あんなに攻撃的で圧のある物言いをするような人じゃなかった。


 思い出が美化されていただけなのかな……。


 周防社長の正体を知って、スッキリした気分ではある。
 だけど、ずっと焦がれてきた想いが挫かれたようでショックだ。


 今の彼を好きになれるかどうかより、知らない彼がいることに動揺を隠せなかった。


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