イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……あ……う……」

あまりの衝撃に、セシルは声すら出せない。
二度と会うこともないだろうとあきらめていた愛しの君に、こんなところで再会するなんて。

セシルはけっして夢見がちな女の子なんかではないけれど、それでもこう思わずにはいられなかった。
これは――神様のお導きだ。

男に体を預けたまま、ぼうっとその瞳を見つめていると。やがて男がゆっくりと口を開いた。

けれどその言葉は、あの晩、仮面の紳士が紡いだ甘い恋の言の葉とは似ても似つかない代物だった。

「貧相な男だな」

運命の出会いが、あっさりと現実に変わっていく。

「その腰の長剣はお飾りか? その小さな体と貧相な腕では、振るえないだろう。貧血を起こすなど、まるで女だ。剣よりもドレスの方がお似合いなんじゃないのか?」

男はセシルの細い腕を持ち上げ興味深そうに眺めたあと、口の端をニヤリと跳ね上げ嘲笑した。

突然罵声を浴びせられ、その上、運命の出会いはあっけなく最悪なシナリオに書き換えられ、セシルはなにも言い返せずに呆然としてしまった。
< 16 / 146 >

この作品をシェア

pagetop