イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……ローズベリー伯の一日も早い回復を祈る。その者では、当分御父上の代わりは務まりそうにないからな」

そんな嫌味をフェリクスへ向けて――セシルには挨拶のひとつもなしで――ルーファス・フランドル伯爵は去っていった。

白金の髪と、深蒼の瞳。あれがまさか、自分の探し求めていた仮面の君なのだろうか?
セシルは優れない体調とは違った意味で目眩を覚えていた。

(そんな馬鹿な。ありえない!)

あの日出会った仮面の男性は確かな紳士であった。
確かに髪や瞳の色は同じだが、あんな不躾なことを言うとは思えない。

「アデル様、今のは……」

もの言いたげなフェリクス、同じことを考えているに違いない。
「同一人物では?」そう言われてしまう前に、セシルは先回りして言い放った。

「人違いだ。あの方ではない」

それだけ告げてセシルはフェリクスの腕の中から立ち上がろうとする。

「いけません、アデル様。急に起き上がっては」

「……フェリクスも私が軟弱だと言いたいのか」

「私に強がりなどやめてください。とにかく、どこかで少し休みましょう」

いつの間にか、セシルの中の『アデル』が暴走してしまっている。フェリクス相手に男言葉を使っている自分に気がついて、頭に血が昇っていることを自覚した。
どうやら本当に休憩を取った方が良さそうだ。

仕方なくセシルは庭園へと続く小階段を下り、人目を避けられる場所を探した。

ただでさえ弱々しく見える細い体なのに、これ以上、ぐったりとしている姿を他の貴族たちに見せるわけにいかない。誰もいないところで体を休めたかった。
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