イジワル騎士団長の傲慢な求愛
庭園の端まで歩いて行くと、三方を壁で囲まれた影になる場所を見つけて、セシルは耐え切れずしゃがみ込んだ。

「アデル様……」

フェリクスは心配そうな眼差しでセシルの背を撫でる。

「大丈夫……少し休んでいれば、また歩けるようになるから……」

覚悟を決めたはずなのに――ローズベリー家の次期当主として役目をまっとうしようと決意したはずなのに、体はどんどん男とはかけ離れていき、貧弱になっていく。
果ては恋などにうつつを抜かしている始末。情けなさに涙が出そうだ。

この痛みの発生源が胸なのだか心なのだかわからない。唇を噛みしめ、やり過ごす。


しばらくすると、土を踏む数人の足音が聞こえてきた。

こちらに近づいている――訝し気に思い顔を上げると、建物の影から黒いローブに身を包んだ男が、三人姿を現した。

フードを目深に被っており、顔は見えない。
宮廷でこんな怪しげな恰好をしているとは、護衛に見つかれば間違いなく拘束されてしまうだろう。
それなのにあえて危険を冒してまでこんな恰好をする目的とは、なんだろう。

顔が見えないにも関わらず男だとわかったのは、その三人の体格がセシルやフェリクスよりもずっと大きかったからだ。

なにか物騒な予感がしてセシルは立ち上がり身構えた。
すかさずフェリクスが男たちとの間に割り込み、セシルを守るように立ち塞がる。
しかしフェリクスはセシル以上に丸腰だ。剣すら携えていない。
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