イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……ひっ」

形勢逆転されてしまったしゃがれ声の男は、怯えた声を上げて敗走に転じる。
地面に転がっていた男たちも這うようにして逃げ出した。

ひとまず、危機的状況から脱して、がっくりと膝をつくセシル。
今さら体が震えだして、歯の音が合わない。

衣服を暴かれ素肌を晒されるだなんて経験は、中身が十六の少女には重過ぎた。
胸もとのはだけた布を掴み、その身を隠すように握りしめる。
目の前には、あの得体の知れないルーファスという男がいるというのに、虚勢すら張れない。

体を小さく丸めるセシルのもとに、ルーファスはゆっくりと近づいてきた。

ルーファスの手が伸びてきて、セシルの体はびくりと反応する。
だがその手はセシルの後頭部へと周り、口にかまされていた布ぐつわを外した。

「……まさか男が強姦されている現場に出くわすとは」

呆れたようにため息をつくルーファス。
どうやら女だという事はバレていないらしい。

「……助かった。礼を言う」

声を震わせながら頭を下げるセシル。

けれど、ルーファスはただでさえ気の強い威圧的な表情をいっそう厳しくさせて一喝した。

「馬鹿かお前は!」

大きな怒声に、セシルは叱られた子どものようにびくりと肩をすくませる。

「俺たちはいつ命を狙われてもおかしくない身分だろう、自分の腕に自信がないなら、家臣は選んで連れて来い!」
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