イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「ルーファス! セドリック伯爵がお前と話したいそうだ」

「わかった。今行く」

ルーファスと入れ替わり、今度はルシウスがセシルのもとにやってくる。
ルーファス以上になにを話せばいいのかわからず、緊張する。
視線を泳がせながらもじもじとしていると、ルシウスの方が気を使って話しかけてくれた。

「こんなところで兄とふたりきりで、なにを話していたのです?」

「い、いえ、たいしたことは」

変に思われてしまっただろうかと、セシルは余計にしどろもどろになる。

けれど、ルシウスはクスリとひとつ笑みを零して、優し気な瞳をいっそう細くした。

「……肝心な婚約をする当人同士が、まだなにもお話できていませんね。兄に先を越されるなんて悔しいな」

「そんな……」

とはいえ、セシルとルシウスは、けっして初対面ではない。
ふたりには舞踏会の晩の思い出があるのだから、それだけで十分だとセシルは思う。

それを今ここで口に出すのは、野暮というものなのかもしれないと、セシルは口を噤んだ。

「……よければ少し、ふたりきりで話しませんか」

ルシウスの提案に、セシルはあっ、と窓の外を覗く。

「では庭園をすこし散策してみませんか? 今の時期はたくさんの花が咲いていて、とても綺麗なんです」

あの舞踏会の晩も、ルシウスは宮廷の庭園で花を観ていたし、花が好きだとも言っていた。

「それでは、ぜひ案内してください」

にっこりと笑ってくれたルシウスを引き連れて、セシルは庭園へと案内した。
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