イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「ああ、見事ですね。本当に素敵な庭だ」

色とりどりの花が咲く庭園を眺めながら、ルシウスはほうっと息をついた。

花にたいそうなこだわりを持っていた伯爵婦人が一流の庭師を雇ったおかげで、彼女亡き今もローズベリー家の庭園はきめ細やかに手入れされ美しさを保っている。

けっして似た色の花を隣には置かない。色を変え、高さを変え、躍動感のある配置をすることで、見るものを飽きさせない工夫が施されている。
花を美しく見せるためだけに、わざわざ丘陵をこしらえたくらいだ。

「気に入っていただけましたか?」

「ええ、もちろん。花は好きです」

喜んで貰えたようでセシルはホッとした。のんびりと鮮やかな色彩を眺めながら、ふたりは庭園の奥へと足を進める。

「ああ、でも、兄のルーファスは……」

「……花がお嫌いなんですか?」

「いえ、真逆です。あんな成りをしているくせに、花が大好きなんですよ。おかしいでしょう?」

クスクスと思い出し笑いを浮かべるルシウス。

「幼い頃、兄とともに祖母へ花を贈ろうとしたのですが、兄がどうしても『宮廷に咲く赤い薔薇がいい』と言ってきかなくて。『この世で一番美しく咲いているから、祖母に相応しい』と。後に企みがバレて、こっぴどく叱られましたけどね」

「そんなことが」

「ええ。兄は不愛想ですが、あれでいて、優しいところもあるんです」

ルシウスはあの舞踏会の夜も、宮廷の庭園で赤い薔薇を愛でながら、この兄との逸話を思い出していたのだろうか。
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