イジワル騎士団長の傲慢な求愛
迎えにきてくれたシャンテルに連れられて、一同は屋敷へと足を向ける。

「ルシウス様は、なにかお好きな食べ物はありますか? 今日の夕食は妹と一緒に腕を振るおうかしら」

「それは楽しみです。おふたりに作っていただけるなら、なんでも」

道すがら、和やかに雑談を交わすシャンテルとルシウス。
セシルはふたりのうしろについて歩きつつも、ふとルーファスの姿を探してみれば、はるか後方で立ち止まっていた。

そういえば花が好きだという話を聞いたばかりだ。セシルは道を戻り、ひとり花を眺めるルーファスのもとへと向かった。

「……花がお好きだそうですね。ルシウス様が教えてくれました」

声をかけると、ルーファスは鬱陶しそうに目を細めた。

「……だから、どうして俺のことなど。自分たちのことを話せと言っているだろう」

呆れたようにため息をつきながらも、ルーファスは指先で優しく赤い花に触れている。
その人差し指と中指で額を持ち上げる仕草が、あの晩の彼と重なって、セシルはドキリとした。

まさか、と思いつつも首を横に振る。そんな仕草、花が好きなら誰だってするだろう、意識しすぎだ。

「……薔薇の花をおばあ様に差し上げたとうかがいました。お優しいのですね」

「子どもの頃の話だろう。そんな昔のことを……ルシウスのやつ――」

不機嫌そうに歪めた顔は、ひょっとしたら照れ隠しだろうか。居心地が悪そうに目線の逃げ場を探している。
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