イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……薔薇の花は、あるか?」

「はい。こちらに」

セシルが庭園の中央に案内すると、そこには、つる薔薇のアーチと色とりどりの薔薇の咲く花壇があった。
そこで薔薇の花を目にしたルーファスが大きく目を見開く。

「青い……薔薇?」

「ああ、それはお母様のお気に入りで――」

ある特定の薔薇の花を掛け合わせ受粉させると、青い色になるらしい。市場には出回っていない珍しい色だ。

「我が家の庭師にしか作れない、特別な色なんですよ。素敵でしょう?」

そう言ってセシルが青い薔薇に手を伸ばそうとした瞬間。
素早くその手首をルーファスが掴んだ。

「っ!?」

体温の高い大きな手が、セシルの細い手首をあっさりと覆いつくす。
突然のことに驚き見上げれば、深蒼の瞳がじっとセシルを映していて、声が詰まってしまった。

だが、どうやらルーファス自身も自らの反応に驚いたようで、我に返るようにハッとした。

「……ああ、すまない」

慌ててその手を離しながら、目を逸らす。

「……容易に触れると、棘を刺すぞ」

そう咄嗟に漏らしたルーファスに、セシルは既視感を覚えた。
確かにセシルは舞踏会の夜、薔薇の棘をあやまって刺してしまったのだが――

「どうしてそのことを……?」

まさかという予想が一瞬セシルの頭をよぎる。あの場にいた彼は、ルシウスではなくて――。
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