イジワル騎士団長の傲慢な求愛
けれどルーファスは目を逸らしたままフッと嘲るように笑った。

「どうしてもなにも。お前ならやりかねないと思っただけだ」

「それはどういう――」

「そのままの意味だが」

「なっ」

どうやら危惧していたことは完全に的外れで、単に馬鹿にされただけだと気づき、セシルはムッと頬を膨らませた。

「むくれるなよ。本当にお前は子どものようだな。思っていることがすべて顔に出てしまっているぞ」

「どうしてルーファス様は人をからかうことがお好きなのですか」

「それはお前が隙だらけだからだ。もう少しからかいがいのない気品漂う淑女に成長してみろよ」

コツン、とセシルの頭に軽く手を当てるルーファス。

「まったくお前は――」

きっとまた馬鹿にされるに違いない、そう思い睨み上げたセシルに思いもよらない言葉が降ってきた。

「かわいらしいやつだな」

不意にセシルの長くて艶やかな黒髪が持ち上げられ、そこに口づけが落とされる。

「えっ?」

目を瞬くセシル。正面には、あの薔薇の花を愛でていたときと同じ顔をしたルーファスがいて、面食らってしまった。
『かわいい』とは、また馬鹿にしているのだろうか。
裏があるにしては、褒め言葉すぎるのではないだろうか。

「ど、どういう意味ですか?」

「またそれか? お前は意味ばかり聞いてくるな」

ルーファスは指の隙間から黒髪をするりとこぼして、今度はその指先をセシルの頬へと伸ばす。

「花を美しいと思う気持ちに、いちいち理由を考えるか?」

「……いえ」

「それと同じだ」


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