イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ルーファスの親指が、ふっとセシルの頬を撫で、顔にかかっていた髪を耳のうしろへかき上げた。
触れられた感触に、セシルの胸は不覚にも熱く高鳴ってしまう。

(やだ。どうしてこんな……)

初めて向けられた柔らかい眼差しに、目を合わせていられない。

(本気なの……?)

ぎゅっと胸が締めつけられて、思いがけず『嬉しい』という感情が込み上げてくる。
もう一度見上げた先の瞳は変わらず慈愛に満ちていて、弄ばれているような気さえしてしまう。

そんな困惑するセシルのもとへ。

「セシルーーー!」

背後から姉の声が降ってきて、ハッとした。

「そんなところでなにをしているの!? そろそろ屋敷に戻りましょうー!」

見れば、すでにシャンテルとルシウスは屋敷に繋がる木戸の前でこちらを待っている。

「ほら。なにぼんやりしてる。いくぞ」

ルーファスに背中を軽く小突かれて、セシルは慌てて歩き出した。
誰のせいでぼんやりしていたのだと思っているのだろう。すべて彼のせいなのに。

しかし、ほどなくしてルーファスが足を止めたので、セシルは訝しく思いふり仰いだ。

「……ルーファス様」

ルーファスは屋敷とは反対側、丘陵の奥の方を見つめ、じっと立ち止まっている。

「どうされましたか?」

「いま、あそこに誰かいたような気がしたのだが」

「さぁ……庭師でしょうか。おかしいですね。今日のこの時間は、来客があるので手を止めるようにと話してあったはずなのですが」

戻ろうとしたセシルだったが、ルシウスは視線を遠くに向けたまま、微動だにしない。
瞳を細め、険しい顔をしている。なにか気になることでもあるのだろうか。
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