イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「ルーファス様……?」

「セシル。俺のうしろにいろ」

突然、ルーファスはセシルを庇うように背中へと隠した。
警戒し身を固くする彼の意図がセシルにはまったくわからない。

「あの、これは――」

「このまま俺の影に隠れて屋敷へ入れ」

「いったいなにを……?」

ルーファスの見つめる先を覗こうと、セシルがふらふらと背中から抜け出した瞬間。
丘陵の奥、草木の隙間から、キラリと光るなにかが見えた。

「――危ない!」

「っ!」

突然ルーファスがセシルの上に覆い被さった。
勢いよく押し倒されて、ふたりは石畳の上に倒れ込む。
そこへ、ふぃぅ、という風を切る音が響いて、ふたりの後方にあった花壇が音を立てて粉々に崩れ落ちた。

「セシル様!」「セシル!?」

ルシウスとシャンテルがふたりのもとへ駆け寄ろうとするが――

「来るな! 物陰にいろ!」

ルーファスの鬼気迫る叫び声にふたりは足を止める。

「こちらです」ルシウスがシャンテルの手を引き、煉瓦作りの背の高い花壇の脇へと身を隠した。

即座に身を起こしたルーファスがセシルへと手を差し伸べる。

「ルーファス様、これは――」

「お前は日常的に命を狙われているのか!?」

「そんなわけ――」

見ればセシルの背後にある崩れた花壇に突き刺さっていたものは矢だった。
もしも庇って貰えていなかったら、セシル自身に突き刺さっていたかもしれない――考えただけでもぞっとした。
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