イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「身を低くして建物の中へ避難しろ! ルシウス、シャンテル様を任せる」

「わかった!」

ルシウスはシャンテルの肩を抱きながら、花壇の影を伝って屋敷の中へ滑り込む。

それを追ってセシルたちも走り出すが――

「っ!!」

「セシル!?」

足首に激痛を覚えて、セシルはその場にしゃがみ込んだ。
矢を避けて倒れた拍子に足首を捻ったのかもしれない。

「走れるか」

「はい……!」

勢いよく頷いたものの、神経を刺激する鋭い痛みに正直走るどころではない。
屋敷までの短い距離だけなら我慢できるかと考えていたが、気合だけではどうにもならなかった。

表情を歪めふらつくセシルに、ルーファスがチッと舌打ちする。

「……お前は本当に強がってばかりだな」

次の瞬間、ルーファスに抱き上げられ、セシルの体がふわりと浮き上がる。

「ルーファス様!?」

「別にかまわないだろう。二度目なのだから」

ルーファスはセシルを抱きかかえ、屋敷より手前にある物置小屋に向かって走り出した。
駆け抜ける間、ふたりのすぐ右横に、風切る音とともに二本目の矢が降り注がれる。

「きゃあっ」

「セシル! 伏せていろ!」

セシルの体を覆い隠すように、ルーファスはその腕にぎゅっと力を込める。
そこへもう一筋の矢が放たれ、セシルはびくりと肩を震わせた。

「ルーファス様っ……!」

「目を瞑っていろ!」

「でもっ……ルーファス様が!!」

抱かれている限りセシル自身は安全だ。だが、守るもののないルーファスは敵からすれば恰好の的。
その矢がいつ彼の背中に降り注がれるか、それを思うとセシルは恐怖で気が気ではなかった。
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