イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「お願いですから、隠れてください!」

セシルの叫びを無視して走り続けるルーファスは、口の端をニッと跳ね上げ余裕の表情を作る。

「大丈夫だ。必ず守ってやるから」

こんな状況だというのに、その言葉は自信に満ちあふれている。

いったいなんの根拠があってそんな無責任なことを言うのだろうか。
今も敵はルーファスの背中を狙って弓をかまえているというのに。

セシルはルーファスの服の裾を掴んで、ぎゅっと目を瞑った。
守ってもらうことしか出来ない自分は、なんと情けないのだろう。
そして、そんな自分を命がけで守ってくれる彼を――

(私は……)

説明のつけられない切なさに、セシルの胸が占拠される。

間一髪、ふたりは物置小屋の影へと滑り込んだ。
ルーファスは壁に背をもたれ、上がった息を慣らしながら、再び余裕の顔で言う。

「大丈夫だと言っただろう?」

「……そういう問題じゃありません!」

セシルの口からまず飛び出したのは、感謝の言葉ではなくて文句だった。

「なんて危ないことをするんですか!」

無傷で済んだのは運がよかったからだ。背中を射貫かれてもおかしくはない状況だった。
けれどそんなセシルの憂慮などまったく気づかず、ルーファスはケロッとしている。
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