イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「セシル」

しかし、ルーファスの不愉快そうな声に引き止められて、立ち止まった。
また気に障ることを言ってしまったのだろうか。そんな覚えはないのだけれど。

「おい、セシル」

いっそう声が厳しくなったので、セシルは仕方なく振り返った。
冷淡で、けれど凛々しく壮麗な、鋭い瞳がそこにはあった。

「なんだその顔は」

恐ろしいほどの威圧感を放ちながらベッドから立ち上がる。
そこまで怒らせるようなことを言った覚えもなくて、思わずセシルは凍りついてしまった。

「あ…あの……」

「来い」

「……ご、ごめんなさい、私、なにか失礼なこと……」

「わからないくせに謝るなよ。いいから来い」

セシルの手を取りゆっくりと引き導くと、ルーファスはベッドの淵に座り、その横へセシルを座らせた。
腰が触れ合うくらいの至近距離で、綺麗な白金の前髪が目の前で揺れた。

「そんな顔のまま帰すわけにいかないだろう」

深く、ルーファスはため息をついて額に手を置く。

「どうして泣いている」

「……えっ……?」

慌ててセシルは自分の頬をぺたぺたと触る。どうやら涙が伝っているわけではないらしく、ホッとする。
けれど確かに頬が熱く瞳も潤んでしまっていて、この状況を泣いていると捉えられても不思議ではないかもしれない。
実際、なぜ瞳が潤んでいるのかといえば、セシルにも答えられない。

「なんでも、ありません」

ふいと顔を背けると、そんなことは許さないとでもいうように、彼の指がセシルの顔と視線を引き戻す。

「姉の相手が俺では不満か?」

「いえ、そういうわけではなく」

「――ならば、逆か? 俺の相手が姉では不満か」

「そ、そんなんじゃ……」

「……そこは不満だと言ってほしいところなんだが」

「……え?」
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