イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ルーファスの唇が近づいてきて、セシルもそれを差し出そうとした。

そのとき。

コンコン、と扉をノックする音が響いて、ベッドの上で重なり合っていたふたりはびくりと体を震わせた。

『――ルーファス。話があるんだが、いいか?』

扉の奥から聞こえてきたルシウスの声に、セシルは蒼白になる。
ルーファスも我に返ったかのように、その身を跳ね起こした。

「――少し待ってくれ」

ルーファスはルシウスに答えると、セシルの手を引き起き上がらせる。

「こっちへ来い」外に聞こえないように小声で言い放ち、空っぽのクローゼットを開けてセシルをその中に押し込んだ。

「隠れていろ。いいと言うまで、出てくるなよ」

それだけ指示すると、クローゼットの扉をそっと閉めて、外から見えないようにした。
辺りはいっぺんに闇に覆われ、隙間から漏れるわずかな灯りしかなくなり、不安になったセシルはぎゅっと目を瞑った。

「入れ」

扉の開く音と、絨毯を踏みしめる靴の音が聞こえた。
ふたりの男の足音が、部屋の中央へと移動する。

「……すまない。眠っていたか?」

「少し疲れて休んでいたんだ。だから手短に頼む」

ふたりの話し声はセシルのもとまでよく届いた。
こちらの息使いが聞こえてしまわないように、セシルは口に手を当てて、ゆっくりと呼吸する。
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