イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……確認しにきたんだ。ルーファス、お前の意思を」

低く押し殺すようなルシウスの声が、部屋の中に響いた。

「俺とセシル様の縁談、お前は本当にこれで満足なのか?」

思いもよらぬ話題になって、セシルは耳を塞いだ。聞いてはいけない内容である気がするが、それでも音声は無情にも耳に入ってきてしまう。

「今さらなにを言っている。この件はここへ来る前にさんざん話し合っただろう」

「だが、日中、お前のセシル様を見つめる眼差しは――」

「やめろ。これ以上、話す気はない」

ルーファスはルシウスを無理やり追い返そうとしているようだった。
足音がバタバタとせわしなくなり、声がわずかに遠ざかる。

「だがこの縁談、本来ならお前が申し込むべきものだったのだろう」

ルシウスの声にセシルはハッと息をのむ。

「お前がセシル様に求婚しようとしたのだろう。それを母上が無理矢理――」

「やめろ、ルシウス」

「本当はセシル様を愛して――」

「ルシウス!」

ルーファスの一括が、セシルの鼓膜をもびりびりと震わせた。
手足がひりひりとかじかんでいく。それなのに頭は火がついたように熱い。
これ以上、この会話を聞いてはならない――もう手遅れかもしれないが。
< 76 / 146 >

この作品をシェア

pagetop