イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「お前の思い違いだ。そんな感情などない」

「嘘だ――」

「嘘だとしても。俺は当主だ。感情どうこうで結婚相手を選ぶ権利などない」

ぴしゃりと言い放ったルーファスに、ルシウスは一瞬、言葉を詰まらせる。

「……母上は、セシル様のいったいなにが不満だと言うんですか」

「セシルには病弱との噂があったから、不安は排除したかったのだろう。世継ぎの産める健康な体を持った、良家の長女がよいのだと。ついでに相手方の爵位もほしいらしい。まったく強欲な母だ」

「そんな相手、いったいどこにいるっていうんだ」

「すぐそこにいる。シャンテル様だ」

「……は?」

ルシウスの苛立った声が部屋に響いて、辺りの空気がピンと張り詰める。

「セドリック伯爵から、シャンテル様と爵位を貰ってくれないかと打診された」

「……どういうことだ? だって、この家には嫡男がいるだろう」

「それは今度説明する」

「待て! そんなんじゃ納得できない!」

「納得しろ! 俺たちに自由などないと、とうの昔にわかっていたことだろう」

「ルーファス!」

バタン、と扉の閉まる音が聞こえた。同時にルシウスの声も聞こえなくなる。
おそらく、ルシウスを部屋から閉め出したのだろう。

こっ、こっ、とゆっくりと、カーペットを踏みしめる鈍い足音がこちらに近づいてくる。
じわりじわりとその時を迫られているようで、セシルの鼓動も大きく、追い詰められていく。
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