イジワル騎士団長の傲慢な求愛
セシルが部屋を出た瞬間に、鍵をかける音が聞こえた。もう二度とくるな、ルーファスのそんな意思表示だろう。

扉に背をつけたまま、セシルの瞳から涙がこぼれ落ちる。

(――どうして?)

セシルの中に湧き上がってしまった疑念は、消すことなどできない。
彼に触れられた部分が、痺れるように疼いて、熱を帯びている。

(あの晩の仮面の君は――あなたなの?)

けれど、ルーファスは、その問いに答えてはくれないのだろう。
――その答えを知ってはいけないから。どうしようもない事実がそこには存在しているから。

この答えがもたらす結果は、ふたりを苦しめるだけかもしれない。
だからルーファスはセシルを追い出した。
誰ひとり幸せになれない真実など、葬り去った方がいい。

真実がどうであれ、現実は揺るがない。
家という名に縛られた彼らに選択する権利などないのだから。
セシルの婚約者はルシウスで、ルーファスの婚約者はシャンテル、それ以上でも以下でもないのだ。
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