イジワル騎士団長の傲慢な求愛
その間。セシルとシャンテルは、もてなしのために焼いたケーキをルシウスに振る舞っていた。

「とても美味しいです!」

「よかった!」

ルシウスの笑顔にふたりは頬を綻ばせる。

「このケーキ、ほとんどセシルがひとりで作ったのですよ、私はお手伝いくらいで」

シャンテルの嘘にセシルは思わず紅茶をむせてしまった。
事実は真逆だ。

「私の妻となる人は、お菓子作りも上手なのですね。結婚したあとも、ぜひ私のために焼いてください」

セシルを立てるためとはいえ、どうしてバレる嘘をついたのだろう、この姉は。
思わずセシルはシャンテルを睨んだ。嫁ぐまでにはひとりで焼けるように、猛特訓をしなければならない。

しばらく歓談していると、ルーファスが部屋に戻ってきた。

「ルーファス様!」

シャンテルの表情がパッと明るくなる。
戻ってくるのを待ちわびていたみたいに、部屋の入り口に立つ彼のもとへ飛んでいき、早くこの輪の中に混じるよう、テーブルへと促した。

一日経っただけで、そんなにもルーファスが大好きになってしまったのだろうか。姉の豹変ぶりに、セシルはただただ困惑する。

「お父様となにを話されてたんですの?」

「……軽く、チェスを。それから少し――」

ルーファスの手が、シャンテルの腰に回った。ごく、自然な仕草で。

「これから先の話をしていた」
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