イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……セシル様」

ルシウスは正面の席から手を伸ばし、ティーカップに添えていたセシルの手をそっと握った。

「……例えこの縁談が運命ではなく、偶然の産物だとしても、私は与えてもらったこのご縁を、大切にしたいと考えています」

ルシウスは気づいている。今セシルが抱えている不安と疑惑に。

「私では、兄の代わりにはなれませんか?」

「そんな、代わりだなんて……」

ルシウスのような素敵な男性のもとに嫁げること自体、幸せなことだと、セシルは重々承知している。
これ以上を望むなんてわがままだ。
――けれど、どうしても胸につかえて止まないのは。

「ひとつだけ、聞かせてください」

セシルは揺れる瞳でルシウスを見据える。

「いただいた手紙には、仮面舞踏会の夜に私を好きになってくださったとありました。あの言葉は、ルシウス様のものではないのですか?」

ルシウスの手がそっとセシルから離れ、視線が遠くへ向く。まるでそれは、セシルの問いかけから逃げ出したかのようだった。
望まない答えが、そこにはある。そんな気がして、セシルの胸は不安にかき立てられる。

やがてルシウスは、静かに口を開いた。

「……次の仮面舞踏会は、七日後でしたか」

不意に視線を戻して、ルシウスは微笑んだ。

「舞踏会で、直接本人に聞いてみたらいかがですか? 私が今ここで答えを言うよりも、すっきりとするでしょう」

その涼やかな笑みの向こう側には、どんな意図があるのだろうか。

けれど彼の言う通りだ。
真実がどちらだったにせよ、ここで納得のいかない答えを聞かされてまた悩むよりも、直接本人に会って確かめる方がいい。

次の舞踏会の夜。もう一度、仮面の君に会いに行く。

次に会う時には、それがルーファスなのかルシウスなのか、迷うことなくわかるはずだ。
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