イジワル騎士団長の傲慢な求愛
もう一度仮面舞踏会に行きたいと言い出すと、フェリクスはあからさまに嫌な顔をした。

けれど、なんだかんだ言ってセシルに甘いフェリクスである。
不満をありありと見せながらも、以前より煌びやかな紅のドレスを調達してくれた。

朝早く屋敷を抜け出そうとしたが、馬車に乗り込むところで不穏な空気を感じ取った姉に見事に見つかってしまった。

「あなたたち、どこへ行くつもりなの」

「……王都に用事があって――」

「もうアデルの振りは止めたんでしょう。いったいなんの用事があると言うの?」

「それは――」

セシルは言い訳に頭を巡らせるが、しどろもどろになるばかりだ。
そんなセシルの両頬を、お仕置きとでもいわんばかりにシャンテルが摘まみ引きのばす。

「ルシウス様のプロポーズの書状で気づいたのだけど。あなたたち、私に隠れて仮面舞踏会に行っていたそうじゃない」

「えっ、あ、それは……」

「私に内緒で、楽しんできたのね!?」

びくりと肩を震わせるセシル。
確かあの日は、宮殿で政務があるとかなんとかごまかして、この屋敷から抜け出したのだった。

「ご、ごめんなさい、隠すつもりは――」

「だったら、私も連れて行きなさい」

「えっ!?」

シャンテルの予想外の要求に、セシルはぎょっと目を見開く。

「いいじゃない。私だって結婚前に一度行ってみたかったのよ」

「……お姉様。私は遊びにいくわけでは――」

「わかっているわ。ルシウス様に会いに行くんでしょう? あなたたちの邪魔はけっしてしないから」

シャンテルは愛嬌のある仕草でぱちりとウインクし、馬車に乗り込んだ。
果てはフェリクスを顎で使い、「そこにドレスと荷物があるから積み込んで」なんて指示を出している。
最初からバレていたのだろう、用意周到に準備をしていたらしく、こちらがどんな説得をしても聞き入れてくれそうにはなかった。
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