イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「どうした」

「……セシル様と一緒かと思いました。あの日、セシル様と会っていたのは、てっきりルーファス様かと」

フェリクスの問いに、ルーファスは答えない。
無言を貫く姿に、フェリクスはそれ以上問い詰めることをやめた。

「……それで。そんなことを言うために来たわけではないだろう?」

「……はい。先日、助言いただいたことを覚えていますか。セドリック伯爵の周りの者を警戒しろと」

神妙な顔つきで切り出したフェリクスを見て、なにか手がかりを見つけたのだと直感的に悟った。

「なにがわかった?」

「……セドリック伯爵の侍女が食事に毒物と思しきものを混入させていました。事情を吐かせたところ――」

「首謀者は?」

「隣国の領主、ダンテ侯爵です」

「侯爵だと?」

思わぬ敵の名に、ルーファスは眉間に皺を寄せた。
やりにくい相手だ。地位は伯爵よりも、侯爵が上――虎が狐を狩ろうというのか、いったいなんのために。ルーファスは舌打ちする。

「目的は?」

「我が領土と産業の利権でしょう。跡継ぎがおらずローズベリー家の爵位が剥奪されれば、そのあとをあてがわれるのは十中八九ダンテ侯爵です」

「そういうことか」

ルーファスはこの会場をぐるりと見回す。
好色で有名なダンテ侯爵もおそらくこの場に来ているものと思われる。
仮面をしているからすぐには見つからないが、目立ちたがり屋であるあの男は、一際派手な恰好をしているに違いない。
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