【完】溺愛飛散注意報-貴方に溺れたい-
「…っ。円香!私達も行こう!」
「でも!」
「せんぱい達を止められるのは、私達だけだよ!」
私は、何故か絶大なる自信を持って、そう円香に言い切った。
そして、教室から飛び出した。
…と、そこに。
「…未麻…?」
「かお、るせんぱい…?」
少しだけ、顔を歪ませて歩いてくる薫せんぱいが、此方に向かってやって来て。
驚いたように、私の名前を呼んだ。
「お前、もう帰ったんじゃなかったのか?」
「委員会だったんです…そんな事より…その顔…」
私は、薫せんぱいの切れてしまってる口唇の端を見て咎めた。
薫せんぱいは、私の言葉に対してそこをスッと隠す。
「…どうして…?」
「……」
押し黙る薫せんぱい。
少しの沈黙。
私は耐え切れなくなって、少しだけ離れていた距離を詰めた。
「…ひどい…血、出てる…」
「…っ」
そっと、その場所に触れると、薫せんぱいの顔がぴくんと揺れる。
多分、私が想い以上に痛みがあるんだと、すぐに分かった。
もしかしたら、見えないだけで他にも怪我をしているかもしれない。
「…円香、由井せんぱいの所に行ってあげて」
「え、でも…」
「ここは大丈夫だから」
「うん…分かった…じゃあ、行くね?」
「そうしてあげて?」
円香にそう告げて、この場から去って行くのを確認した後、私は薫せんぱいの方を向いて教室へと促した。
教室に招き入れると、すぐ入り口からすぐ側の椅子に座らせる。
私は薫せんぱいに掛ける言葉が見付からなくて黙ってしまっていた。