過保護なドクターととろ甘同居
遠のきそうな意識のまま声の先へと顔を向けると、そこにはいつの間にか戻ってきていたらしい先生の姿があった。
ほんの一瞬、先生と目が合う。
でもすぐに視線を上げ、待合室へと目を向ける。
白衣のポケットに両手を突っ込んで、受付けの向こうを見る目は、いつになく鋭く冷たい。
先生は黙ったまま私の掛けるすぐ横までやってくると、木之本さんに代わって受付けへと自ら立った。
「申し訳ありませんが、こちらの事情でうちでは診察をお受けできません」
出てきた思いもよらぬ言葉に、先生の顔を見上げていた。
「時期的に、そろそろお生まれになるかと思いますが、生憎うちも患者さんの出産ラッシュでして、満床になるかと。よろしければ、この近くの産科をご紹介しますが」
淡々とした冷静な口調で先生は言う。
受付けに立つ女性は「そうですか」と、突如現れた先生にどこか面食らったような様子だった。
向こうで待つ俊くんに振り返り、黙って病院を出ていくその姿に出した保険証と母子手帳を手に取る。
「わかりました。他、当たってみます」
そう言い残し、受付けから立ち去っていった。