MAZE ~迷路~
有紀子が中に入ると、立ったままで待っていた二人の刑事はすぐに有紀子に挨拶した。
「たびたび申し訳ございません。」
刑事物のドラマに出てきそうな二枚目の刑事が、本当に申し訳なさそうに言った。
「いいえ、娘がお世話になっております。」
有紀子は形式的に挨拶すると、二人に腰掛けるように勧めた。
「実は、いくつかもう一度確認させていただきたい事がありまして・・・・・・。」
二枚目の刑事は言うと、手帳を開いて話し始めた。
「お嬢さんは、遺体で発見された絢子さんが、生きていると信じていらした。つまり、あの殺人事件は、事実ではないと信じていらした、間違いないですね?」
「はい。あの事件は、娘が渡英中の事でしたから、娘はそれ以来ずっと、どこかで絢子さんが生きていると、信じたかったんだと思います。」
有紀子の答えに、刑事は黙って頷いた。
「でも、場所は知らなかった。そうですね?」
「はい、知らなかったと思います。絢子さんの事件では、加害者とされていた、夛々木(たたき)哲(さとる)さんと娘は大学の同級生で、美波の紹介で絢子さんと夛々木さんのお付き合いが始まったという経緯がありまして、近江さんからは、お葬式の参列も、お墓参りもお断りを受けていましたので、事件以後は、まったくお付き合いがありませんでした。」
「では、なぜ、十年もたってから、お嬢さんは近江(このえ)病院に行ったのでしょうか? そういう状況では、不法侵入の疑いもあるかと思いますが?」
有紀子は、もう一度、栗栖の名前を出すか、躊躇した。
「実は、栗栖(くりす)万年(たかとし)という、フリーライターの方から、絢子さんがあそこに居るというような話を聞かされたようです。」
「そのライターの連絡先はお持ちですか?」
今まで、まったく口をきかなかった、もう一人の年若い刑事が始めて口を開いた。
「名刺が娘の机にありました。」
有紀子は言うと、ポケットの中から栗栖の名刺を取り出した。
「お借りしてもよろしいですか?」
二枚目の刑事は、名刺を受け取りながら確認した。
「はい。お持ちください。」
有紀子は言うと、もう一人の刑事が、メモを取るのを目で追った。
「お聞きしにくい事なのですが、お嬢さんは手錠をお持ちでしたか?」
有紀子は、刑事の質問の意図がわからず、思わず顔を見返した。
「すいません。実は、捜査の過程で、近江氏には、そう言ったものを使用する性癖があるとの証言があがっていまして。そう言った、趣味を同じくする女性が、定期的にあの特別病棟で近江氏と深い関係を持っていたとの証言もありまして。」
刑事は言うと、言い難そうに頭をかいた。
「娘は、そう言ったものは持っていなかったはずです。」
有紀子が言うと、刑事は話を続けた。
「今までの経緯をまとめますと、お嬢さんは、近江氏、もしくは、栗栖なるライターに、絢子さんに逢わせるとそそのかされ、特別病棟に連れ込まれた挙句、絢子さんのベッドに手錠で縛り付けられた。というのが、私の考えなんですが・・・・・・。」
二枚目の刑事は言うと、有紀子の顔色を伺った。
「娘は、絢子さんにとても逢いたがっていましたから、可能性は高いと思います。」
有紀子は言うと、刑事の目を見つめ返した。
(・・・・・・・・やっぱり、家族もそう思ってるわけか。指紋が残ってるのは、ベッドの柵だけ。ドアーにも、コンセントにも、何にも指紋が残っていない。誰かが、引き入れた以外には、考えられない。しかし、死人に口なしとは、よく言ったものだ・・・・・・・・)
有紀子は、すべるように刑事の心を読んだ。
「お嬢さんは、爆発物ですとか、破壊活動、そう言ったものには興味をお持ちですか?」
再び、もう一人の年若い刑事が口を開いた。
「いいえ。あの子は環境学が専門ですから。」
「最近は、地球環境だとか、動物の権利を守るだとか言って、物騒な事をするグループが多いですよね?」
年若い刑事は言うと、有紀子の事を見つめた。
「それでしたら、帰国して五年も待たずに、帰ってきてすぐにできたと思います。ですが、入院患者のいる病院に何かするというのは、話が合わないと思います。」
有紀子が言うと、年若い刑事は頭を掻き始めた。
(・・・・・・・・まいったな。本人の証言でもなければ、これ以上は踏み込めないな・・・・・・・・)
有紀子はゆっくりと、相手の心を読んだ。
「お茶、来ませんわね。」
有紀子は言うと、立ち上がった。
「結構です。もう、失礼いたしますから。」
二枚目の刑事は言うと、相棒を急き立てて、立ち上がった。
「あくまでも、お嬢さんは、重要参考人で、任意でご協力をお願いしております。最近のマスコミの過剰報道でご迷惑なさっているとは思いますが、絶対に本名を明かすことはございませんので、ご安心ください。」
それだけ言うと、二人の刑事は来たときと同じく、穏やかに去って行った。
「敦ちゃん、わざとお茶を持ってこなかったのね。」
居間に戻った有紀子は言うと、ふてくされている敦の事を見つめた。
「あいつらに、お茶なんて出してやる必要ないよ。」
敦は言うと、有紀子の湯飲みにお茶を注いだ。
「でもね、あのハンサムな刑事さん、美波の事を信じてるみたいだったわ。」
有紀子が言うと、敦は信じられないという顔をして見せた。
「おばさん、こんな時にハンサムはないでしょ。」
敦の言葉に、有紀子はおもわずふきだした。
「やあね。敦ちゃん。私が言ってるのは、あの人、誰かが内部で手引きして、あそこに美波をおびき出したって思ってるって事よ。」
有紀子の言葉に、敦は苦笑して見せた。
「後は、絢子ちゃんに、その事を証言してもらうしかないわ。」
有紀子は言うと、敦の事を見つめた。
「えっ、また翔悟って人の振りを?」
敦は言うと、少し後退った。
「私より、絢子ちゃんは翔悟の言葉を信じるわ。」
有紀子に言われると、敦は嫌とは言えなかった。
例え、沈みかけた泥舟だとしても、舵取り役であるはずの智が一番に船を下りてしまった以上、敦には船を下りる気にはなれなかった。
(・・・・・・・・こうなれば、死なば諸共。美波と一緒なら、泥舟で沈んでも良いや。あれ、でも、あれが絢子ちゃんだとしたら・・・・・・・・)
敦は、有紀子が心を読めるのだという事を忘れて、一人で考え続けた。
「敦ちゃん、大丈夫よ。この船は沈まないわ。」
有紀子が言うと、敦は有紀子の事をまじまじと見つめかえした。
「おばさん、やっぱり読めるんだ。」
敦が感心したように言うと、有紀子は笑って見せた。
「小さいころから、クリスマスのプレゼント、一度も敦ちゃんの欲しいものはずした事なかったでしょ?」
有紀子の言葉に、敦は昔、クリスマスが近くなると、『欲しいものを頭の中に思い浮かべて』と言った、有紀子の事を思い出した。
(・・・・・・・・そうだ、あの頃、俺、おばさんはサンタクロースの娘だから、俺の欲しいものがわかるんだって、おばさんの言葉、本気で信じてた・・・・・・・・)
「残念だけど、サンタクロースの娘って言うのは嘘よ。それから、ハンサムな方が宮本さん、連れが園田さんよ。」
有紀子は言うと、敦の煎れたお茶をおいしそうに飲んだ。
☆☆☆
翌日、絢子を訪ねた敦は、前日よりも緊張している自分に苦笑した。
ベッドの上の絢子は、敦の顔を見ると少しうれしそうな表情を浮かべた。
「絢子。」
敦が言うと、絢子は首を横に振って見せた。
「美波って呼ぶんでしょ。」
絢子の適応の早さに、敦は驚いたものの、すぐに話を始めた。
「美波、あの事件の日、栗栖って男と一緒だっただろ?」
敦が言うと、絢子は目を曇らせた。
「お父さんとあの男、ぐるになって美波を壊そうとしたんだ。」
絢子の『壊す』という表現が理解できず、思わず敦は問い返した。
「壊すって言うと?」
敦の言葉に、絢子は疑いの眼差しを向けた。
「壊しちゃうんだよ。徳恵さんを壊したみたいに。私を壊したみたいに。」
絢子は言うと、敦の事を見つめた。
「ごめん、絢子。変な事を聞いて。」
敦は言うと、『壊す』という言葉を『殺す』というかたちで理解した。
「まず、ここから出ないと、絢子と美波を一人にしてあげられない。」
敦の言葉に、絢子は驚いて敦を見上げた。
「だって、私、美波を・・・・・・。」
『殺してしまった』と、言いそうになって、絢子は慌てて口をつぐんだ。
「僕は、美波は、まだ生きていると確信してる。だから、その体は二人のものなんだ。昔みたいに。彩音がそうだったみたいに。」
敦の言葉に、絢子は静かに頷いた。
「二人を助けるには、ここから出ないといけない。その為には、警察に、だれが美波をあそこに連れ出したか話す必要がある。でも、美波が知らなかった事を警察に言っては駄目だよ。」
敦が言うと、絢子は頷いてみせた。
「僕は外で待ってる。一刻も早く絢子と美波に逢いたい。そして、二人をこの手で抱きしめたい。」
敦の言葉に、絢子は寂しげな目をした。
「あの時、翔悟は、本当は美波が好きだったんでしょう?」
予期しなかった質問に、敦は答えに窮して、唇をかみ締めた。
「気にしないで、ごめんなさい。」
絢子は言うと、横を向いた。
「絢子。」
敦は、衝動的に声をかけた。
「絢子、僕は、いつでも君を大切に想ってる。それは、美波の事も同じだよ。」
自分の言葉が正しいという自信はなかったが、敦は思わずそう言った。
「ありがとう。翔悟。」
絢子は、そういって敦に笑いかけた。
☆☆☆
「たびたび申し訳ございません。」
刑事物のドラマに出てきそうな二枚目の刑事が、本当に申し訳なさそうに言った。
「いいえ、娘がお世話になっております。」
有紀子は形式的に挨拶すると、二人に腰掛けるように勧めた。
「実は、いくつかもう一度確認させていただきたい事がありまして・・・・・・。」
二枚目の刑事は言うと、手帳を開いて話し始めた。
「お嬢さんは、遺体で発見された絢子さんが、生きていると信じていらした。つまり、あの殺人事件は、事実ではないと信じていらした、間違いないですね?」
「はい。あの事件は、娘が渡英中の事でしたから、娘はそれ以来ずっと、どこかで絢子さんが生きていると、信じたかったんだと思います。」
有紀子の答えに、刑事は黙って頷いた。
「でも、場所は知らなかった。そうですね?」
「はい、知らなかったと思います。絢子さんの事件では、加害者とされていた、夛々木(たたき)哲(さとる)さんと娘は大学の同級生で、美波の紹介で絢子さんと夛々木さんのお付き合いが始まったという経緯がありまして、近江さんからは、お葬式の参列も、お墓参りもお断りを受けていましたので、事件以後は、まったくお付き合いがありませんでした。」
「では、なぜ、十年もたってから、お嬢さんは近江(このえ)病院に行ったのでしょうか? そういう状況では、不法侵入の疑いもあるかと思いますが?」
有紀子は、もう一度、栗栖の名前を出すか、躊躇した。
「実は、栗栖(くりす)万年(たかとし)という、フリーライターの方から、絢子さんがあそこに居るというような話を聞かされたようです。」
「そのライターの連絡先はお持ちですか?」
今まで、まったく口をきかなかった、もう一人の年若い刑事が始めて口を開いた。
「名刺が娘の机にありました。」
有紀子は言うと、ポケットの中から栗栖の名刺を取り出した。
「お借りしてもよろしいですか?」
二枚目の刑事は、名刺を受け取りながら確認した。
「はい。お持ちください。」
有紀子は言うと、もう一人の刑事が、メモを取るのを目で追った。
「お聞きしにくい事なのですが、お嬢さんは手錠をお持ちでしたか?」
有紀子は、刑事の質問の意図がわからず、思わず顔を見返した。
「すいません。実は、捜査の過程で、近江氏には、そう言ったものを使用する性癖があるとの証言があがっていまして。そう言った、趣味を同じくする女性が、定期的にあの特別病棟で近江氏と深い関係を持っていたとの証言もありまして。」
刑事は言うと、言い難そうに頭をかいた。
「娘は、そう言ったものは持っていなかったはずです。」
有紀子が言うと、刑事は話を続けた。
「今までの経緯をまとめますと、お嬢さんは、近江氏、もしくは、栗栖なるライターに、絢子さんに逢わせるとそそのかされ、特別病棟に連れ込まれた挙句、絢子さんのベッドに手錠で縛り付けられた。というのが、私の考えなんですが・・・・・・。」
二枚目の刑事は言うと、有紀子の顔色を伺った。
「娘は、絢子さんにとても逢いたがっていましたから、可能性は高いと思います。」
有紀子は言うと、刑事の目を見つめ返した。
(・・・・・・・・やっぱり、家族もそう思ってるわけか。指紋が残ってるのは、ベッドの柵だけ。ドアーにも、コンセントにも、何にも指紋が残っていない。誰かが、引き入れた以外には、考えられない。しかし、死人に口なしとは、よく言ったものだ・・・・・・・・)
有紀子は、すべるように刑事の心を読んだ。
「お嬢さんは、爆発物ですとか、破壊活動、そう言ったものには興味をお持ちですか?」
再び、もう一人の年若い刑事が口を開いた。
「いいえ。あの子は環境学が専門ですから。」
「最近は、地球環境だとか、動物の権利を守るだとか言って、物騒な事をするグループが多いですよね?」
年若い刑事は言うと、有紀子の事を見つめた。
「それでしたら、帰国して五年も待たずに、帰ってきてすぐにできたと思います。ですが、入院患者のいる病院に何かするというのは、話が合わないと思います。」
有紀子が言うと、年若い刑事は頭を掻き始めた。
(・・・・・・・・まいったな。本人の証言でもなければ、これ以上は踏み込めないな・・・・・・・・)
有紀子はゆっくりと、相手の心を読んだ。
「お茶、来ませんわね。」
有紀子は言うと、立ち上がった。
「結構です。もう、失礼いたしますから。」
二枚目の刑事は言うと、相棒を急き立てて、立ち上がった。
「あくまでも、お嬢さんは、重要参考人で、任意でご協力をお願いしております。最近のマスコミの過剰報道でご迷惑なさっているとは思いますが、絶対に本名を明かすことはございませんので、ご安心ください。」
それだけ言うと、二人の刑事は来たときと同じく、穏やかに去って行った。
「敦ちゃん、わざとお茶を持ってこなかったのね。」
居間に戻った有紀子は言うと、ふてくされている敦の事を見つめた。
「あいつらに、お茶なんて出してやる必要ないよ。」
敦は言うと、有紀子の湯飲みにお茶を注いだ。
「でもね、あのハンサムな刑事さん、美波の事を信じてるみたいだったわ。」
有紀子が言うと、敦は信じられないという顔をして見せた。
「おばさん、こんな時にハンサムはないでしょ。」
敦の言葉に、有紀子はおもわずふきだした。
「やあね。敦ちゃん。私が言ってるのは、あの人、誰かが内部で手引きして、あそこに美波をおびき出したって思ってるって事よ。」
有紀子の言葉に、敦は苦笑して見せた。
「後は、絢子ちゃんに、その事を証言してもらうしかないわ。」
有紀子は言うと、敦の事を見つめた。
「えっ、また翔悟って人の振りを?」
敦は言うと、少し後退った。
「私より、絢子ちゃんは翔悟の言葉を信じるわ。」
有紀子に言われると、敦は嫌とは言えなかった。
例え、沈みかけた泥舟だとしても、舵取り役であるはずの智が一番に船を下りてしまった以上、敦には船を下りる気にはなれなかった。
(・・・・・・・・こうなれば、死なば諸共。美波と一緒なら、泥舟で沈んでも良いや。あれ、でも、あれが絢子ちゃんだとしたら・・・・・・・・)
敦は、有紀子が心を読めるのだという事を忘れて、一人で考え続けた。
「敦ちゃん、大丈夫よ。この船は沈まないわ。」
有紀子が言うと、敦は有紀子の事をまじまじと見つめかえした。
「おばさん、やっぱり読めるんだ。」
敦が感心したように言うと、有紀子は笑って見せた。
「小さいころから、クリスマスのプレゼント、一度も敦ちゃんの欲しいものはずした事なかったでしょ?」
有紀子の言葉に、敦は昔、クリスマスが近くなると、『欲しいものを頭の中に思い浮かべて』と言った、有紀子の事を思い出した。
(・・・・・・・・そうだ、あの頃、俺、おばさんはサンタクロースの娘だから、俺の欲しいものがわかるんだって、おばさんの言葉、本気で信じてた・・・・・・・・)
「残念だけど、サンタクロースの娘って言うのは嘘よ。それから、ハンサムな方が宮本さん、連れが園田さんよ。」
有紀子は言うと、敦の煎れたお茶をおいしそうに飲んだ。
☆☆☆
翌日、絢子を訪ねた敦は、前日よりも緊張している自分に苦笑した。
ベッドの上の絢子は、敦の顔を見ると少しうれしそうな表情を浮かべた。
「絢子。」
敦が言うと、絢子は首を横に振って見せた。
「美波って呼ぶんでしょ。」
絢子の適応の早さに、敦は驚いたものの、すぐに話を始めた。
「美波、あの事件の日、栗栖って男と一緒だっただろ?」
敦が言うと、絢子は目を曇らせた。
「お父さんとあの男、ぐるになって美波を壊そうとしたんだ。」
絢子の『壊す』という表現が理解できず、思わず敦は問い返した。
「壊すって言うと?」
敦の言葉に、絢子は疑いの眼差しを向けた。
「壊しちゃうんだよ。徳恵さんを壊したみたいに。私を壊したみたいに。」
絢子は言うと、敦の事を見つめた。
「ごめん、絢子。変な事を聞いて。」
敦は言うと、『壊す』という言葉を『殺す』というかたちで理解した。
「まず、ここから出ないと、絢子と美波を一人にしてあげられない。」
敦の言葉に、絢子は驚いて敦を見上げた。
「だって、私、美波を・・・・・・。」
『殺してしまった』と、言いそうになって、絢子は慌てて口をつぐんだ。
「僕は、美波は、まだ生きていると確信してる。だから、その体は二人のものなんだ。昔みたいに。彩音がそうだったみたいに。」
敦の言葉に、絢子は静かに頷いた。
「二人を助けるには、ここから出ないといけない。その為には、警察に、だれが美波をあそこに連れ出したか話す必要がある。でも、美波が知らなかった事を警察に言っては駄目だよ。」
敦が言うと、絢子は頷いてみせた。
「僕は外で待ってる。一刻も早く絢子と美波に逢いたい。そして、二人をこの手で抱きしめたい。」
敦の言葉に、絢子は寂しげな目をした。
「あの時、翔悟は、本当は美波が好きだったんでしょう?」
予期しなかった質問に、敦は答えに窮して、唇をかみ締めた。
「気にしないで、ごめんなさい。」
絢子は言うと、横を向いた。
「絢子。」
敦は、衝動的に声をかけた。
「絢子、僕は、いつでも君を大切に想ってる。それは、美波の事も同じだよ。」
自分の言葉が正しいという自信はなかったが、敦は思わずそう言った。
「ありがとう。翔悟。」
絢子は、そういって敦に笑いかけた。
☆☆☆