英雄は愛のしらべをご所望である
その時、突如窓の外から、ポロンーーっと優しい音色がウィルの耳に届いた。
後を追うように聞こえるのは微かな美しい人の声。
ラルドの演奏が始まったようだった。
時折、さわさわと木々の葉が揺れる音にかき消されるが、情緒的な歌声と滑らかなハープの音は、聞く者の心を揺さぶる。
ラルドは演奏はもちろん、その美貌も相まって王都で大変有名だ。
シルバからの誘いで来店したウィルも、噂通りだと納得した程である。
まさかラルドがセシリアの師匠だなんて思いもしなかったが、この腕前ならば弟子をとって当然なのかもしれない。
「ただなぁ……」
ウィルは立ち上がると、音を手繰り寄せるように窓横の壁に寄りかかり、長い睫毛に縁取られた瞳をそっと閉じた。
素人が聞いてもラルドの演奏は素晴らしい。
それはウィルも認めている。
ただ、ウィルが今聞きたいのはこれじゃないのだ。
ハープの演奏なんて、どれも同じだとウィルは思っていた。
専門家ではないのだから、上手い演奏であれば、誰が弾いても心を揺さぶるのだと、そう思っていた。
けれど、川縁でセシリアの演奏を聞いた時、ウィルはその考えが間違いだと知ってしまった。
もはや揺さぶるなんて甘い言葉では言い表せない。
心臓を捕まれ、振り回されているかのような衝撃。息をするのも忘れ、視線が外せない。そんな感覚。
もしあの時、リースがいなかったら、自分はどうなっていたのだろうか、とウィルは今でも時々考えるのだ。