英雄は愛のしらべをご所望である

セシリアの仕事が一段落したのは、閉店してまもなくのことであった。

気を利かせてくれたリリーが、早く部屋に戻っていいと片付けを引き受けてくれたのだ。
ラルドが何か文句を言っていたようだが、リリーに半ば引きずられるようにして連れていかれたので気にしないことにする。

リリーには明日にでも何かお礼の品を買ってこよう、とセシリアは心の中で感謝した。

急いで階段を駆け上り、部屋の前にたどり着く。
セシリアは自分の部屋のドアを開けるのに、こんなにも緊張したことがあっただろうか、と自問した。

大きく吸った息を呑みこみ、気合いを入れる。何に対してかはわからない。

ドアノブをゆっくり回し、そっと開けた先で見えた光景に、セシリアの心臓が小さな悲鳴を上げる。


「ウィ、ウィル?」


ベッドの縁に座る大きなウィルの背に、セシリアは恐る恐る声をかけた。
しかし、反応がない。

不思議に思ったセシリアがウィルの正面まで足を運ぶと、そこには腕を組んだまま目をつぶっているウィルの姿があった。


「……寝てる、の?」


反応がないということは、眠っているのだろう。……この体勢で。
ベッドの上にいるというのに、横になることなく眠るとは……しかも、体が全くぶれていない。

さすが騎士。そう誉めるしかないだろう。

寛いでくれて良かったのに、とも思ったが、よくよく見ればシャツのボタンが三つほど外されている。
緩められた首もとが、ウィルにとってギリギリ合格ラインの寛ぎ方だったか。

そう考えて、セシリアは我慢できず小さく吹きだした。
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