英雄は愛のしらべをご所望である
それにしても、とセシリアは改めてウィルを観察する。
普段、自分が使っていて見慣れているはずなのに、凄くベッドが小さく見える。
八年前とでは、ウィルの纏う雰囲気は勿論、身体の大きさも全然違って、鍛えられた腕や胸を間近で見ていると緊張してしまう。
それでも、目が離せない。
言葉を交わすわけでもないのに、この時間がとても幸せに思えた。
寝顔をいつまでも見ていられるなんて、重症かもしれない。
その時、セシリアの目があるものを捕らえた。
「これ……傷……」
はだけた胸元にうっすら残る長い傷痕。他にも小さな傷がいくつも見える。
最近できたものではない。完全に傷は塞がっているし、大きな傷は若干皮膚がひきつってさえいる。
村を出る前にはなかったはずだ。
この八年、ウィルはどんな人生を送ってきたのだろうか。
騎士になる前、なった後ーーそして、ウィルを『黒き英雄の再来』として有名にした戦争。
想像しようとしても、経験したことがなさすぎてできやしない。
だが、確実にこの傷はその時にできたものだ。
知りたいけれど、安易に触れていいのかすらわからない。
ただただ目の前にいるウィルを瞳に写し、傷を数えて、心の内に想いを留めることしかセシリアにはできないのだ。