英雄は愛のしらべをご所望である

「……ごめんね」


思わず口から漏れた言葉は、ウィルにしてみれば、ありがた迷惑なものかもしれない。
関係ないだろう、と言われてしまえば、それまでの関係なのだから。

それでも、セシリアはウィルに何かしてあげたいのだ。
余計なお世話でもいい。

少しでもウィルを助けたい。笑える時を作ってあげたい。
幸せになってほしい。

自分がしてあげられることは何かを考えても、正解がわからない。
だから、沸き上がってくる。ごめんね、と。

そしてなによりーー


セシリアはそっとウィルの頬へと手を伸ばす。


なによりーーそんなことを考えておきながら、心の片隅で、目の前にウィルがいるという『今』を喜んでいることが、申し訳なくなる。

過去を知ろうとする勇気はなく、それなのに今を噛み締めている、己の能天気さが嫌になる。

『好き』という気持ちが自分勝手に暴れていて恐ろしい。



セシリアの指先がウィルの頬を掠める。
伝わってくる温もりに息が詰まった。

その瞬間、セシリアの視界を勢いよく何かが横切り、手首に強い衝撃が加えられた。
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