英雄は愛のしらべをご所望である
庭と建物をつなぐドアの前で、腕を組んで立つ女性は、肩の高さで切り揃えられた亜麻色の髪を風に靡かせ、赤みがかった瞳をセシリアへ向ける。


「……リリー」
「昨日のあのお客さんが関係してるのかしら」


リリーはセシリア達がお世話になっている『エデン』の店主夫婦の一人娘で、セシリアより六歳上のサバサバとした性格の女性だ。
今も何ら躊躇いもなく核心を突く質問をしてくる。
セシリアは思わず口を結び、目を伏せた。

ウィルと再会したのは昨夜のこと。結局、セシリアはラルドの演奏後も忙しなく動いていたため、ウィルと言葉を交わすこともなく、彼らは帰ってしまった。

ラルドの演奏の際に目が合ったことで少しだけ期待してしまったのは、確かだ。もしかしたら声をかけてくれるかも、と思ったりもした。

でも、ウィルは帰る際も声をかけてくれることはなく、セシリアの知らぬまにいなくなっていた。


「ウィルは悪くないよ。これは一方的なものだもの」


寂しいとは少し違う。
ウィルが騎士になると言った時、セシリアは何となく感じ取っていた。今の状況を変えたい、とウィルが思っていることを。

だから、ウィルが『エデン』のような店に出入りできる立場になっていることを知って嬉しく思ったのだ。
自分の記憶よりも成長したウィルに戸惑いはしたが、悲しくはなかった。

でも、昔のように気兼ねなく話せる仲ではなくなっていて、ウィルもその関係を望んでいるようには思えなかった。

八年という月日は、過ぎてしまえばあっという間だが、意外と長い。
ウィルが色々な経験をして、過去との向き合い方を変えてしまってもおかしくはないのだ。現に、小さかったセシリアも今では村を出て、夢に向かって修行をしている。

そう、セシリアとウィルの根幹が変わった訳ではない。二人を囲む環境が変わってしまった。
それを痛感した時、ただ残念だ、とセシリアは思ったのだ。
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