英雄は愛のしらべをご所望である
強ばっていたセシリアの身体から力が抜けていく。
ウィルが何を考えているのか、セシリアは今もわからない。けれど、ウィルが笑う姿を見ただけで心が解れていくようだった。
単純と言われればそれまでだが、大切な人の笑みほど安心させられるものはない。
きっと何らかの理由があってウィルはセシリアに演奏しろと言っている。素直にそう信じたくなった。
セシリアは静かにリースの隣に腰を下ろす。ひんやりとした草でセシリアの火照った身体から熱が引いていった。
「リースさんは黒き英雄様がお好きですか?」
「んー、まだよくわからない。俺は知っているつもりで知らなさすぎのようだし」
まるで謎かけのようなリースの言葉にセシリアはふわりと柔らかい笑みを返した。
「だから知りたいんですね」
リースの金の瞳が静かにセシリアへ向けられる。
「私の師匠の仕事は吟遊詩人に似ています。演奏家と違うところは歌うこと。普通の歌い手と違うところは、過去の出来事を語るような内容の唄が多いこと」
もちろんオリジナルの歌を歌うこともできるし、リクエストに答えることもある。そこは聞き手あっての商売だ。
けれど、ラルドは好んで黒き英雄の唄など古くから伝わる唄を歌う。
「師匠はよく過去を語り継ぐのも仕事の一つだと言います。唄には作り手の心情や登場する者の人生があって、それらを聞き手にどれだけ伝えられるか。興味を持ってもらえるか、が大切なんだと。私はその技術がまだまだですが、リースさんの知りたいという欲求を少しは満たせるかもしれません」
ハープを握るセシリアの手に自然と力が入る。村にいた頃は気楽に演奏していたが、ラルドに弟子入りしてからというもの、セシリアの唄を聞くのはラルドかリリーくらいになった。
久しぶりの人前。それも、相手は初対面の男性とウィルである。緊張しないはずがなかった。