英雄は愛のしらべをご所望である
しかし、セシリアは意識して微笑み続ける。
セシリアとて遊びで修行をしてきたわけではない。例えラルドからお墨付きをもらえていない演奏であっても、自分が出来うる最高の演奏をしたかった。
セシリアはハープを構え、息を吸い込む。その瞬間、強い風が吹き抜け、セシリアの白銀に近いプラチナブロンドの長い髪が靡いた。
街灯の明かりに照らし出されたその美しい輝きを放つ髪が、男達の瞳にはっきりと映る。いつの間にか息を止めていたウィルは、セシリアが弾いたハープの音で我に返った。
細い指が弦を踊るように弾き、色とりどりの音達が空気を伝い、肌を刺激する。静寂に包まれていた空間に響くハープの音は、身体の奥にまで届くほど澄んでいて、心が締め付けられような感覚になった。
「悲しみや苦しみが世界に溢れし時
黒き英雄は剣を掲げる
どれだけ赤に塗り替えられようと
その黒は何色にも染まることなく
太陽を隠す雲を取り払う
讃えよ
光を取り戻し、愛を取り戻した彼の剣を
慈しめよ
黒き英雄が繋いだ未来を」
穏やかな水面の上を滑るような優しく儚げな声が辺りに響く。
リースはそっと目蓋を閉じて、ウィルは瞬きもせず真剣な眼差しをセシリアへと向け、唄を聞いていた。