英雄は愛のしらべをご所望である
俯いていたリースがふーっと大きく息を吐き出した。赤みがかった金色の髪をかき上げ、露になったリースの表情は明るい。


「英雄の唄を聞けてよかった、ありがとう。えー、君の名前は……?」
「セシリアです」


満面の笑みで答えたセシリアにリースは微笑み返した。その笑みがあまりにも神々しくて、セシリアの頬が自然と火照っていく。


「セシリアさん、か。素晴らしい演奏だったよ」
「あ、ありがとうございます!」


修行を初めてから誉められることが少なかったためか、セシリアは嬉しさを隠しきれず勢いよく頭を下げた。そんなセシリアの姿を見て、リースはふっと笑いを漏らす。


「またセシリアさんの演奏が聞きたいんだけど、いいかな?」


そう言ってリースは座ったまま重心をセシリアの方へと近づける。顔を覗きこむようにして僅かに上目遣いとなったリースの破壊力は凄まじく、セシリアは何度も頷くことしかできなかった。

リースの表情がパッと花が咲くような無邪気なものに変わる。コロコロと変わる雰囲気にセシリアの頭も心も追い付かない。


「ありがとう。俺、セシリアさんが気に入っちゃった」


リースはセシリアの片手をとると、そのまま軽く持ち上げ、唇を寄せた。セシリアは固まって動けず、視線だけが己の手に向かう。
唇が手の甲に触れる、その直前ーーセシリアの手首を大きな手がガシリと掴んだ。
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