英雄は愛のしらべをご所望である
こんなにも守られると、自分の手首を掴むウィルの手を意識せざる終えなくなってくる。セシリアはトクトクと速まっていく鼓動を感じながらチラリとウィルを仰ぎ見た。


「ウィル?」


どうしたのか、とセシリアの声が問いかける。その声はそれほど大きくない音量だったが、ウィルにはしっかり届いたのか、闇の中でもはっきりと輝く黒い瞳がセシリアへと向けられた。


「もう用事は済んだ。向こうのお迎えも来ているようだし、俺らも帰るぞ」
「……お迎え?」


セシリアは首を傾げる。辺りを見渡しても人の影はないように思えるからだ。
セシリアはリースに視線を向けた。本当に一人で大丈夫なのか、と。

しかし、セシリアの心配もよそに、リースは妖艶な笑みを浮かべヒラヒラと手を振る。


「素敵な夜だったよ。ありがとう、セシリアさん。それに、ウィルも助かったよ。それじゃあ、またね」


リースの言葉に軽い会釈を返したウィルは、リースに背を向け歩き出す。いつの間にかウィルの手はセシリアから離れていて、置いていかれては困るとセシリアも深く頭を下げた後、駆け足でウィルを追いかけていった。
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