英雄は愛のしらべをご所望である

ウィルからの返答がないまま五メートル程進んだだろうか。ウィルが足を止め、セシリアを見た。止まれなかったセシリアが不思議そうな顔で振り返る。


「やっぱりどこか辛いの?」


急に止まったり、歩く速度が落ちたりと、ウィルにしては珍しいくらい歩行が覚束無い。今まで、ウィルの速度が上がり置いていかれたことはあれど、同じスピードで歩くなんてことはなかった。


「……さっきの質問は俺に言ってたのか」


ウィルの眉間に僅かに皺が寄る。どうやら困惑しているらしい。
どうしてそういう反応になるのかはわからないが、二人で歩いているのだから当然だろう、とセシリアは頷いた。


「だって、さっきから変だよ。止まったり、歩く速度が落ちたり……だから、具合が悪いのかなって」


セシリアの言葉にウィルの動きが止まった。すーっと目が逸らされる。ウィルの様子が明らかにおかしかった。


「ウィル? ねぇ、どうしたの?」
「いや、なんでもない」


そんなわけないだろう、とセシリアは思う。


「ウィールー?」


セシリアが詰め寄ると、ウィルは少し後退りした。このやりとりが、なんだか子供の頃に戻ったようで懐かしい。


「ウィルってば!」
「……あーもう、わかったから」


ウィルは両手を軽く上げ、観念したのか小さな溜め息をこぼす。まるで子供の我が儘を聞いている親のようだ。
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