英雄は愛のしらべをご所望である

「女性を置き去りにして歩くな、とか言われたのね」
「……まぁ、そうだな」


つまり、自分がセシリアを置いて、先に歩いていることに気づいたウィルは、立ち止まってセシリアのペースに合わせて隣を歩いていたというわけだ。
なんとも律儀である。


「ウィルに言うことを聞かせるなんて、その先輩、凄いわね。会ってみたいなぁ」


ウィルはあからさまに嫌な顔をした。だが、セシリアが先輩に会うことを嫌がっているというより、何かを思い出しているようだ。きっとその先輩に違いない。
俄然、どんな先輩か興味が湧いてくる。とはいえ、これ以上言えばウィルが怒りだすのは目に見えているので、セシリアは追求することをやめた。


「でも、私にも先輩の教えが適用されるとは驚いた」


それは、セシリアにとって話題を変えるための軽い言葉にすぎなかった。へらへらと笑いかけたセシリアに、ウィルは至って普通のトーンのまま言葉を返す。


「何言ってる。お前は女性だろう」
「ふぇっ!? あ、うわっ」


セシリアからおかしな声が発せられた。同時に危うくハープを落としそうになる。
ウィルの表情は全く変わっていない。しかし、セシリアにとってはこの会話の中で一番衝撃的な台詞だった。
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