英雄は愛のしらべをご所望である
「ウィルが頑張っている姿を見られただけでも十分だから」
セシリアの言葉を聞いたラルドは、ほぉーっと感心した様子を見せた。
まっすぐウィルを見つめるセシリアの瞳には、はっきりとした愛情が見てとれる。それでも、それを相手に一方的にぶつけず、必死に内へ秘めているようにも思えた。
少女から女性へ変わろうする、眩しくて、危うくて、仄かな色気を交えたその目を、ラルドは暫し黙って観察していた。
「あっ!」
嬉しそうな声を上げ、セシリアがラルドの服の袖をクイクイと引っ張る。
「そんなに引っ張ったら生地が痛むよ、セシリア」
「だって、ウィルがこっちを見てる!」
興奮して上擦った声をあげるセシリアに、ラルドは「ふーん」 と感情の読めぬ声を発した。
「ねぇ、セシリア」
掠れて艶やか、それでいて人の警戒を解いてしまうような柔らかさを持った声がセシリアに降ってくる。
美声で多くの人間を魅了してきたラルドだからこそ発せられる声だ。
セシリアは驚いて振り返り、ラルドの近さに更に驚いた。一歩分あった距離が、いつの間にかすぐ横まで来ている。
「ど、どうしたんですか、師匠?」
「……そのドーナツ、ひとつ頂戴」
そう言ってラルドはセシリアの前に手を伸ばし、セシリアの持つ小さな箱からドーナツをひょいっと一つ手に取った。