クールな王太子の新妻への溺愛誓約
ひとりにされたクレアは、心細さにそわそわし始めた。カーテンを持ち上げて外を見てみても、ベティとマートがなにをしているのかは見えない。
「ねぇ、ベティ? マート?」
堪えきれなくなったクレアが呼びかけても、返事すらない。御者台を拳で叩いてみても、そこに乗っているはずの侍従はノーリアクションだ。
(いったいなにがあったの……?)
不安にとりつかれて腰を浮かしかけた時だった。待ち焦がれたマートが馬車に戻ってきた。
「……ベティは?」
「彼女にはちょっと用事を頼みました」
「用事を……?」
クレアが聞き返すと、マートは口もとにだけ笑みを浮かべた。どことなく嫌な感じのする笑みだった。
クレアの胸がざわつく。
陽の落ちた外はすっかり暗い。盗賊がいるかもしれないから危険だと連れ出されたのに、ベティひとりに用事を頼むのはおかしい。