クールな王太子の新妻への溺愛誓約
「ふざけるのもたいがいにするんだ、マート!」
レオンがひと振りした剣が空を切り、ヒュン!という音を立てる。目から滲んだ怒りが、漆黒の闇に赤く燃えるように見えた。
クレアの鼓動が速まる。その音が耳の奥に大きく響き、制御することは不可能に思えた。
クレアは身動きひとつできずにいたが、恐怖に震える中であっても冷静さを保とうとゆっくり呼吸を繰り返す。それでも剣の切っ先が数センチと離れずにある事実に、どうしても息が浅くなる。
(落ち着くのよ、クレア)
自分に言い聞かせる。
(今ここで悲鳴を上げて無理にマートに抵抗したりすれば、火に油を注ぐことになってしまうわ)
かといって、どうしたらこの状況を打破できるのか名案も浮かばない。
「ふざけているつもりはありませんよ、レオン殿下。僕はいたって真面目です。それとも、クレアの命はどうなっても構わないと?」
レオンが剣を握りしめる音がかすかに聞こえた。