クールな王太子の新妻への溺愛誓約
クレアもその刺繍は記憶に残っている。赤い目の真っ青な獅子が、前足で掻くように前へ突き出した刺繍。レオン同様にクレアも注意を引かれた。
あれはモンタリスクの紋章だとレオンが言う。
マートの目がカッと見開かれた。
「その帰り道で盗賊に襲われた時、剣の達者なお前が、明らかに剣術の劣る盗賊に押されていた。そしてクレアが倒れる前だ。一瞬だけ盗賊に目配せした自覚はあるか?」
マートは瞬間的に息を吸い込み、そのまま体を強張らせた。顔から血の気が引いていく。
レオンは度重なるマートの不審な点に気づき、それからの彼をマークしていた。
秘密裏にマートを調べさせ、次々に人物像が浮かび上がっていく。王宮に仕える際に提出する身上書にはフィアーコの街の出だと書かれていたが、マートの生家とされる家は存在していなかった。
王宮に迎え入れる前に詳細に調べるべきだったが、見事な剣さばきが目を眩ませていた。その腕ならば、レオンの側近として適任だろうと。
そうしてマートは、思惑どおりにレオンの近くで来るべき時を待つことができたのだ。
レオンが、怪我を負ったマートの見舞いにクレアを行かせたくなかった理由は、ここにあった。